このブログは、主に宇宙を題材にしたSF小説の中から、科学や物理に関連するトピックを選んでわかりやすく解説します。宇宙に興味のある方はもちろん、これまでSFを読んだことのない方にも、科学の扉を開くきっかけになる事を目指しています。読む時間は5分程度なので、ちょっとしたスキマ時間で気分転換になると思います。そして小説を読んだ後にもう一度この記事を読むと「なるほどー」な感覚が楽しめますよ。
今回は、ジェイムズ・P・ホーガンの『ガニメデの優しい巨人』から、ブラックホールの話です。
この物語の中で、人類よりもはるかに進んだ文明をもつ存在「ガニメニアン」が登場します。彼らは、なんとブラックホールを操る技術を持っていたのです。
ガニメニアンたちは、木星の衛星・ガニメデで見つかった宇宙船の乗組員でした。その宇宙船の中には、ドーナツのような巨大な輪があり、輪の中央の空洞部分を、小さなブラックホールがぐるぐる回っていたのです。
この構造は、ブラックホールの力を利用して重力を発生させる装置のようでした。ブラックホールによって生じる「時空のゆがみ」が、エネルギーを生み出し、それが重力になるという仕組みだったのです。
ブラックホールとは、ものすごく強い重力を持つ天体のこと、その重力は、なんと「光」ですら逃げ出せないほど強力なのです。

アインシュタインの一般相対性理論によると、一度ブラックホールの境界「事象の地平線(event horizon)」を超えると、もう何も外へ出てこられなくなります。そのため、ブラックホールに吸い込まれた物質や光は、私たちからはまるで“消えてしまった”ように見えるのです。
ブラックホールは、ものすごい質量が小さな一点(「特異点」)にギュッと詰め込まれているため、周囲の空間や時間までもが強くゆがみます。このような「時空のゆがみ」が起こることは、今の物理学でも理論的に説明されています。
現時点で、私たち人類にブラックホールを作る技術はありません。もしも作れたとしても、そこに物質を入れたときにどうなるのか、物質が本当に「消えてしまう」のかについても、明確な答えは見つかっていないのです。基本的に、物質は「消える」ことはありません。放射性崩壊や素粒子の反応で、ある元素が別の元素に変わることはありますが、完全に「無くなる」わけではないのです。ただし、素粒子と反粒子がぶつかって「対消滅」する場合には、物質がエネルギーに変わり、消えるように見えることもあります。これは例外的な現象です。
私たちの体をつくる「水素」や「ヘリウム」といった元素は、宇宙が始まった直後に生まれました。これを「ビッグバン元素合成」と呼びます。宇宙誕生からわずか数分の間に、現在の宇宙に存在するほとんどの水素とヘリウムが作られたのです。このとき生まれた水素とヘリウムは、今も宇宙にたくさん存在しています。

水素原子はとても安定しているため、長い時間を経てもそのまま残ります。特に1H(水素の基本的な形)は、自然界でもっともよく見られる水素で、壊れにくい特徴があります。
この水素は、星が生まれるずっと前から宇宙空間に存在しており、今でも銀河や星間ガス、さらには私たちの体の中にもあります。
つまり――
あなたの体の中の水素は、137億年前のビッグバンで生まれたかもしれないのです。
では、人が亡くなったあと、その体にあった水素はどうなるのでしょう?
たとえば火葬されれば、水蒸気などになって空中に放出されます。
その水素は、地球の自然の中や宇宙のサイクルへと戻っていきます。
いつかまた、新しい命や物質の一部になるかもしれません。
あなたの中の水素は、宇宙の誕生からやってきて、今ここにいて、そしてまた未来のどこかへ旅していくのです。
いかがでしたか?
ちょっと宇宙のことを考えるだけで、自分の存在がとても壮大な物語の一部に感じられるかもしれません。 次回も、そんな不思議で面白い話をお届けします。お楽しみに!
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