ミッキー7-宇宙空間の物質

宇宙空間の物質 — 実は「完全な真空」じゃない話

こんにちは、ブロガーNです。

今回は、SF小説『ミッキー7』から、宇宙空間の物質の話です。

宇宙の“温度”って何を指すのか

実は宇宙は思っているほど空っぽじゃないのですが、その前に、宇宙空間の温度はどれくらいなのかについて少し。

放射(背景放射)の温度:宇宙全体に満ちる電磁波(いわゆる宇宙背景放射)の温度は約 2.7 K(ケルビン)。摂氏だと約 −270.4 ℃です。(ケルビンは絶対温度。0 K = −273.15 ℃)

物体の平衡温度:太陽から遠くに置いた物体は理想的にはこの 2.7 K に近づきますが、銀河の星明かりや赤外線の影響で 数ケルビン〜数十ケルビンになることもあります。

ガスの運動温度:たとえば太陽風は約10⁵ K(10万 K)、銀河団内のガスは10⁸ K(1億 K)に達することがあります。ただし密度が極端に低いので、温度が高くても「触って熱い」わけではありません(粒子同士の衝突がほとんど起きないため)

つまり「温度が高い=熱を感じる」ではなく、粒子の密度と組み合わせて考える必要があります。

高速で飛ぶ宇宙船にとって怖いもの:熱より「衝突エネルギー」

高速(特に光速に近い速度)で移動する宇宙船にとって怖いのは、実は温度より粒子や塵との衝突によるエネルギーです。

宇宙空間には微小な固体粒子、いわゆる 星間塵(星間ダスト)が無数に浮かんでいます。大きさは数ナノメートル〜数マイクロメートルなどさまざまです。

例:半径 1 μm(マイクロメートル)の塵

もし光速の 90%(0.9c)でぶつかると、その一回の衝撃で約 1.5 kJ(キロジュール)のエネルギーが局所的に与えられる規模になります。

1.5 kJ はイメージとしては 60 W の電球を約 25 秒点ける程度ですが、衝突は一瞬で小さな面積に集中するため、金属表面を局所的に溶かしたり穴を開けたりできます。

さらに、半径 1 μm の塵は宇宙に多数存在するため、0.9c で進む宇宙船だと秒あたり数万個の衝突が起きる計算になります。例えば毎秒 36,000 個衝突すると、

1.5 kJ × 36,000 = 54,000 kJ/s = 54 MJ/s = 54 MW

つまり常に小型発電所レベル(数十 MW)のエネルギーが衝突エネルギーとして注ぎ込まれるような状況になります。防護や熱処理が非常に大きな課題になるのが直感的に理解できると思います。

「シールド(フィールド)」で掻き分ける、というアイデア

SF作品では、ミッキー7 に登場するように フィールドジェネレータ(シールド)で星間物質を掻き分けながら進む描写がよく出ます。現実的にも、微粒子の衝突エネルギーが致命的にならないよう何らかの防護が必要で、シールドや前方の物質をプラズマ化して逸らす、といった方式が議論されています。

ただし物語の展開として、まれに大きな質量の粒子(たとえば数グラム〜十グラム級)に当たる場面が起きれば、致命的な損傷につながります。なぜなら速度が非常に速いため衝突エネルギーは天文学的に大きくなるからです。

もし質量が約 10 g の粒子が 0.9c の宇宙船にぶつかると、衝突エネルギーは TNT 換算で数十万トン規模に相当する大きさになります。つまり、500円(7g)硬貨がぶつかるだけで「核爆発に匹敵」する破壊力、というすごい事になるのです。

とはいえ、宇宙は平均すると極めて希薄なので、実際には、体積あたりにそんな大きな塊が存在する確率は極めて小さいです。つまり「遭遇確率はほぼゼロに近い」が「もし当たれば致命的」という性質を持つのが高速航行の難しさです。

おわりに — エネルギーの壁

最後にもう一つ、大きな壁があります。高速(光速に近い)への加速そのものに必要なエネルギーです。ざっくり言うと、1トンの質量を 0.9c に加速するためのエネルギーはとてつもなく大きく、日本全体の年間電力消費の何十倍という数字になります。

したがって、将来的に恒星間航行が現実になるにしても、

1. 衝突エネルギーから乗員・船体を守る防護手段をどう作るか

2. 宇宙船の膨大な加速エネルギーをどのように作りどう使うか

この二つが大きな技術的・物理的ハードルであることは間違いありません。SF作品はここをどう物語化するかで色々なドラマを生みます。ミッキー7 のようにシールドが壊れてしまう展開は、その典型ですね。

参考リンク

宇宙マイクロ波背景放射

星間塵の一生

購買リンク


コメント

タイトルとURLをコピーしました