ミッキー7 – 高エネルギー粒子

こんにちは、ブロガーNです。
今回は、比較的新しいSF小説『ミッキー7』から、高エネルギー粒子のお話を取り上げます。

エクスペンダブルとは
この小説の主人公ミッキーは、自ら志願して「エクスペンダブル(使い捨て人間:死んでも再生可能な人間)」となり、宇宙での危険な任務に挑んでいきます。

エクスペンダブルは、人の記憶をすべて機械に保存しておき、もし死んだ場合は肉体を再生し、保存していた記憶を注入することで“元の人間”に戻れる仕組みです。

さらに、この時代(今から1,000年以上先の未来)には、光速の90%で移動できる宇宙船が実現しており、人類は銀河系の各地へと進出しています。

しかし、超高速で航行する宇宙船は、宇宙空間に漂う高エネルギー粒子(宇宙線)を大量に浴びてしまいます。シールドがなければ、人間はわずか1分以内に死亡してしまうほどの危険な環境です。

ミッキーは、宇宙船にトラブルが発生し、シールド外に出て修理をしなければならない時には、「エクスペンダブル」として死を覚悟して作業することを知らされます。

高エネルギー粒子とは?
宇宙空間を飛び交う高エネルギー粒子とは、宇宙線やプラズマ中の荷電粒子を指します。これらはブラックホールや超新星爆発といった壮大な天体現象で加速され、ほぼ光速で宇宙を駆け巡ります。

これらの粒子は地球大気を突き抜けて地表に到達し、人体に入れば細胞の破壊やDNA損傷を引き起こす可能性があります。宇宙飛行士は国際宇宙ステーション(ISS)で地上よりも高い放射線に曝され、月や火星探査ではさらに多くの宇宙線を浴びることになるのです。

被ばくによるリスクには、がんの発生率上昇や長期滞在時の深刻な健康影響が懸念されています。ISSでは地上の約100倍の宇宙線を浴びるため滞在期間が制限され、さらに地球の磁気圏や大気圏の保護が及ばない月や火星では、宇宙線の量は地球軌道上より大幅に増加します。

温度の上限とプランク温度
ここで話題を少し広げてみましょう。太陽の60〜130倍もの質量を持つ巨大な恒星は、寿命の最期に3億℃近い高温に達すると考えられています。このような環境では、光子(光の粒子)が電子とその反物質である陽電子に変化する現象が起きます。

私たちが日常で扱う「温度」とは、粒子の平均的な運動エネルギーを示すものです。水分子が激しく動けば温度が高い、というわけです。恒星の中心核反応では数百万〜数億度に達しますが、これはまだ物質が存在できる範囲の現象にすぎません。

では、温度には理論的な「上限」があるのでしょうか?
答えは「プランク温度」と呼ばれるものです。
 プランク温度:約 1.4168 × 10³² K(10の32乗ケルビンという桁外れの数値です)

この温度を超えると、粒子のエネルギーが大きすぎて重力の量子効果が無視できず、相対性理論や量子場理論といった現在の物理法則が成り立たなくなります。

The luminous, hot star Wolf-Rayet 124 (WR 124) is prominent at the center of the James Webb Space Telescope’s composite image combining near-infrared and mid-infrared wavelengths of light from Webb’s Near-Infrared Camera and Mid-Infrared Instrument.
Credits: NASA, ESA, CSA, STScI, Webb ERO Production Team

温度が上限に近づくと何が起こるか?
なぜ温度に上限があるのかというと、ある温度を超えると、エネルギーは「運動を速める」ことではなく、「新しい粒子を次々と生み出す」ことに使われてしまうからです。

先ほど触れた巨大恒星の最後に起こる「光子 → 電子・陽電子対生成」は、その典型的な例です。さらに温度が上がると、クォークとグルーオンが自由に飛び交う“原始の海”のような状態となり(ビッグバン直後と同じ)、その先は量子重力の世界に突入します。

プランク温度を超える領域では、時空そのものが泡立つように揺らぐ「時空の量子揺らぎ」が起こると考えられています。

宇宙の温度スケールまとめ
恒星の中心:最大でも数億〜十億度程度(プランク温度に比べれば無限に低い)
超新星/ガンマ線バースト:10¹¹〜10¹² K
ビッグバン直後:10³² K近辺、つまりプランク温度に迫る状態

このようにSF小説から出発しても、実際の宇宙物理学に触れると、想像を超えるスケールの話へと広がっていきます。まさにSFと科学の面白さが交差する瞬間です。

参考リンク
宇宙放射線(リンク)

2つのブラックホールの衝突によって生じた重力波(リンク)

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