もし、巨大な荷物をほとんど力を使わずに持ち上げられたら、世界はどう変わるでしょうか?
重い荷物をトラックではなく、空中を滑らせるように都市から都市へ運ぶ。
宇宙船を巨大なロケットで打ち上げるのではなく、静かに空へ浮上させる。
そんな未来を可能にするかもしれない技術があります。
それが、「重力制御」です。
私たちは普段、重力をあまり意識していません。しかし、地面の上を歩けるのも、海が地球からこぼれないのも、月が地球の周りを回っているのも、すべて重力が関係しています。
今回は、ロバート・A・ハインラインの名作SF小説『夏への扉』を入口に、「重力とは何か」そして「重力制御は可能なのか」を考えてみましょう。

物語の主人公ダニエルは、ある出来事をきっかけに冷凍睡眠、いわゆるコールドスリープに入ります。そして目覚めた先は、彼が知っていた時代よりもはるか未来の世界でした。
その未来では、驚くべき技術が実用化されています。
それは「重力を制御する技術」でした。
私たちは、重力を「地球が物を引っ張る力」だと感じます。
リンゴを手から離せば地面に落ちる。
ジャンプすれば、また地面に戻ってくる。
確かに日常生活では、この理解でほとんど困りません。
しかし、アインシュタインの一般相対性理論では、重力をもっと不思議なものとして考えます。
キーワードは、「時空のゆがみ」です。
また、現代物理学では、3次元の空間と1次元の時間を合わせた、4次元の「時空」として捉えます。
つまり一般相対性理論によれば、地球や太陽のような大きな質量を持つ天体は、その周囲の「時間」も「空間」も歪められていると考えるのです。
つまり地球が私たちを「見えない手」で引っ張っているのではなく、
地球が周囲の時空をゆがめ、物体がそのゆがみに沿って動いている。
これが、一般相対性理論における重力の考え方です。

しかし、大きな問題があります。
現在の物理学では、巨大な宇宙を説明する理論と、極小の世界を説明する理論が、まだ完全にはひとつになっていません。
宇宙や星、ブラックホールなどを説明するのが、一般相対性理論
原子や素粒子のような小さな世界を説明するのが、量子力学です。
どちらも非常に成功した理論です。ところが「重力を量子の世界でどう説明するか」という問題になると、まだ完成した答えがないのです。
そこで現在研究されているのが、量子重力理論であり、その候補のひとつが、ループ量子重力理論です。この理論では、空間そのものが滑らかに続いているのではなく、想像を絶するほど小さなスケールで「最小単位」のような構造を持つ可能性を考えます。
「空間にも、それ以上細かくできない基本構造があるのではないか?」
と考えるのです。
ところが、
「時空は量子レベルで何からできているのか」
「重力は量子の世界でどう働くのか」
という疑問には、まだ決着がついていません。
ループ量子重力理論も、弦理論も、非常に重要な研究分野ですが、
現時点で「これが重力の最終理論だ」と実験で確認されたわけではないのです。
おわりに
小説では、重力制御法を研究していた科学者が、その研究の副産物としてタイムマシンを発明します。
これは単なる偶然の設定ではありません。
現代物理学でも、重力・時間・空間は深く結び付いています。
強い重力のもとでは時間の進み方が変化します。高速で移動しても時間の進み方は変わります。
つまり、「重力を操る」ということは、突き詰めれば「時間と空間に働きかける」方法を見つけることだと考えられるのです。
参考リンク
アインシュタインの重力理論と量子力学の統一を目指す新理論――時空は量子的ではなく古典的
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