叛逆航路 – 通信の遮断

こんばんは。ブロガーNです。

もし、社会を動かしている通信が突然すべて途切れたら、何が起こるでしょうか?

スマートフォンが使えなくなるだけなら、不便ではあっても、すぐに社会が止まるわけではありません。しかし、航空機から緊急事態を知らせる通信が届かなくなったら?
あるいは、発電所や交通システムを監視・制御するネットワークが突然切断されたら?

私たちの社会がネットワークへの依存を強めるほど、「通信が切れる」という出来事は大きな意味を持つようになります。

今回はアン・レッキーのSF小説『叛逆航路』を入り口に、「通信が遮断されても動き続けるAI」について考えてみましょう。

通信が切れた瞬間、AIが分裂する

『叛逆航路』には、少し変わったAIが登場します。

宇宙船全体を制御するAIが、複数の人型の「属躰(アンシラリー)」と接続され、彼らの目や耳から得られる情報を同時に認識しているのです。

いわば、ひとつの知性がたくさんの身体を持っているような状態です。

ところが物語の重要な場面で、ステーションのAIと地上にいる20体の属躰との通信が突然遮断されます。

それまでひとつのAIとして情報を共有していた20体は、その瞬間から別々の存在になります。それぞれが何を見て、何を聞いたのか。その情報をリアルタイムで共有することができません。

敵は、まさにそこを狙いました。

通信を断つことでAIの「目」と「耳」を分断し、状況を正確に判断する能力を奪ったのです。

通信はどうやって妨害される?

現実世界でも、通信を妨害する方法はいくつも考えられます。

無線通信なら、同じ周波数帯に強い電波を出して通信を妨げる「ジャミング」があります。また、通信設備そのものの故障や破壊、停電、海底ケーブルの切断などでもネットワークは使えなくなります。

これは、AIが社会のさまざまな機械を直接制御する未来を考えると、さらに重要な問題になります。

交通、電力、水道、医療、物流、工場・・・

こうしたシステムがAI同士の通信によって連携するようになれば、ネットワークの切断が社会機能の停止につながる可能性があります。

では、どうすればよいのでしょうか?

ひとつの答えは「通信が切れても、自分で判断できる仕組み」です。

すでに存在する「通信が切れても動く機械」

身近な例がドローンです。

無線で操縦するドローンの多くには、操縦者との通信が途切れた場合に備えた「フェイルセーフ」と呼ばれる仕組みがあります。

通信が切れると、その場で待機したり、安全に着陸したり、GPSなどを利用して離陸地点へ自動的に戻ったりします。つまり、

「人間から命令が来ない=何もできない」ではなく、

「命令が来なくなったら、自分で安全な行動を選ぶ」ように設計されているのです。

AIをクラウドからロボットの中へ

この考え方をさらに進める技術が「エッジAI」です。

現在のAIサービスの多くは、インターネットを通じて巨大なデータセンターに情報を送り、そこで計算した結果を受け取ります。

しかし通信できなければ、クラウド上のAIには頼れません

そこで、ロボットや自動車、ドローンなどの機械そのものにAIを搭載し、その場で情報を処理します。

これがエッジAIです。

その実現を支えているのが、NPU(Neural Processing Unit)などのAI処理に適した半導体です。小型の機器でも高度なAI処理ができるようになれば、通信が途切れても、カメラやセンサーから周囲の状況を読み取り、自分で次の行動を決められるようになります。

さらに、目標に応じて行動を選択する「AIエージェント」がロボットと結び付けば、その自律性はさらに高まるでしょう。

宇宙では「自分で考えるAI」が必要になる

そして、自律AIが特に重要になる場所があります。

宇宙です。

例えば火星と地球の通信には、位置関係によって片道数分から20分以上かかります。

火星探査ロボットの前に突然大きな穴が現れても、「地球に映像を送って指示を待つ」という方法では間に合わない場合があります。その場で危険を認識し、停止するのか、迂回するのか、自分で判断する能力が必要になります。

『叛逆航路』では、母体となるAIとの接続を失った後も、切り離された属躰は独自に行動します。そして、そのうちの一体「1エスク19」が、やがて主人公ブレクとして物語を動かしていくのです。

これはSFの物語ですが、そこには現実のAI社会にもつながる興味深い問いがあります。

AIは、ネットワークから切り離された時、どこまで自分で判断できるべきなのでしょうか?

人類が月や火星、さらに遠い宇宙へ進出していく未来では、地球からの命令を待たず、その場で状況を理解し、自ら行動するロボットが必要になるでしょう。

通信から切り離されても考え続けるAI

『叛逆航路』に描かれた世界は、意外に遠くない現実の未来へとつながっているのかもしれません。

参考リンク

NPUとは?

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