こんばんは。ブロガーNです。
もし今の記憶や知識を持ったまま20年前に戻れたら、何をしますか?
投資をやり直すかもしれません。別の進路を選ぶかもしれません。
あるいは、大切な人との出会いをもう一度経験したいと思うかもしれません。
「過去へ戻る」
それは人類が古くから抱き続けてきた願望のひとつです。
そして、その願望を最も魅力的な形で描いてきたのがSF作品です。
今回は、ロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』から、「タイムマシンは本当に可能なのか?」というテーマを考えてみましょう。

『夏への扉』の主人公ダニエルは、1970年にコールドスリープ(冷凍睡眠)に入り、30年後の2000年に目覚めます。
ここで興味深いのは、「未来へ行く」こと自体は意外と単純だという点です。
30年間眠り続けることができれば、本人にとっては一瞬のうちに未来へ到着したように感じられます。周囲の世界だけが30年進み、自分はほとんど年を取らないのです。
しかし問題は「過去へ戻る」ことです。
ダニエルは、未来世界で軍事機密として開発されたタイムマシンの存在を知ります。
そして、その装置を使って1970年へ戻ろうとします。
ところが、ここで有名な問題が登場します。
もし過去に戻って歴史を変えたら、未来はどうなるのでしょうか?
自分が生まれる原因を消してしまったら?
過去の自分と出会ったら?
こうした矛盾は「タイムパラドックス」と呼ばれ、タイムトラベルを語る上で避けて通れないテーマです。
タイムパラドックスを説明するために、物理学者やSF作家たちはいくつかのアイデアを考えてきました。
多元宇宙(マルチバース)説
最も有名なのは、多元宇宙説です。
あなたが過去を変えた瞬間、新しい宇宙が枝分かれして生まれるという考え方です。
元の宇宙の歴史はそのまま残り、変更された歴史は別の宇宙として存在します。
近年の量子力学の解釈の一部にも似た考え方があり、多くのSF作品で採用されています。
自己無撞着性原理
もうひとつ興味深いのが、「歴史は変えられない」という考え方です。
物理学者イーゴリ・ノヴィコフが提案した自己無撞着(むどうちゃく)原理では、過去へ行った人の行動も最初から歴史の一部だったと考えます。
つまり、
「祖父を殺そうとしても、何らかの理由で失敗する」
「過去を変えたつもりでも、その行動自体が現在を作っていた」
ということになります。
実は『夏への扉』は、この考え方にかなり近い構造を持っています

では、物理学の観点からタイムマシンは可能なのでしょうか。
興味深いことに、現代物理学では「未来への時間旅行」は理論上可能です。
例えば、アインシュタインの特殊相対性理論では、高速で移動するほど時間の流れが遅くなります。
GPS衛星の時計が地上の時計とずれるのも、この相対論的効果が原因です。
極端な例では、光速に近い速度で宇宙旅行を行えば、宇宙船の乗組員にとっては数年しか経っていなくても、地球では数十年や数百年が経過している可能性があります。
つまり、未来への片道切符なら、物理法則の範囲内で実現できるのです。
一方で、過去へのタイムトラベルは状況が大きく異なります。
理論上よく登場するのが「ワームホール」です。
ワームホールとは、時空をトンネルのように結び付ける仮説上の構造です。
宇宙の離れた場所を一瞬で結ぶだけでなく、条件によっては時間の異なる地点を結べる可能性も指摘されています。
しかし問題があります。
ワームホールを安定して維持するためには、「負のエネルギー」と呼ばれる特殊な物質が大量に必要になると考えられています。
現在の科学では、そのような巨大な装置を作る方法はまったく分かっていません。
さらに過去へ戻ることが可能になると、因果関係そのものが崩れてしまう恐れがあります。
そのため、多くの物理学者は、
「自然界にはタイムパラドックスを防ぐ仕組みが存在するのではないか」
と考えています。
有名な物理学者 スティーヴン・ホーキング はこれを「年代記保護仮説(Chronology Protection Conjecture)」と呼びました。
これは簡単に言えば、
「宇宙そのものがタイムマシンを禁止しているのではないか」
という考え方です。
おわりに
時間という謎はまだ完全には解明されていません。
物理学者 カルロ・ロヴェッリ は、『時間は存在しない』の中で、人間が感じている時間の流れは宇宙の根本的な性質ではないかもしれないと述べています。
私たちは「過去→現在→未来」という流れを当たり前だと思っています。
しかしそれは、熱力学第二法則によるエントロピー増大を観測している結果に過ぎない可能性があります。
もし宇宙のどこかに、私たちとは全く異なる時間の性質を持つ世界が存在するとしたらどうでしょう。
そこでは時間が逆向きに流れているように見えるかもしれません。
あるいは、「過去」と「未来」の区別そのものが存在しないかもしれません。
現代科学では、過去へ戻るタイムマシンはほぼ不可能だと考えられています。
しかし、時間とは何かという根本的な問いには、まだ誰も完全な答えを持っていません。
だからこそSFは面白いのです。
科学がまだ答えを見つけていない領域を自由に想像し、未来の可能性を描き出してくれるからです。
『夏への扉』を読むと、「時間とは何か」「人生とは何か」という問いが自然と頭に浮かんできます。
そして、その問いこそが、科学への最初の扉なのかもしれません。
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