銀河帝国の興亡 – ミュータント

こんにちは。ブロガーNです。

もしAIが、あなたの気持ちを変えられるとしたら?
自分では「自分で決めた」と思っていることが、実はAIによって誘導されていたとしたら、どうでしょうか?

しかも、自分では操られていることにまったく気づかない。そんな能力を持つ人物が登場するSFがあります。それはアイザック・アシモフの名作『銀河帝国の興亡(ファウンデーションシリーズ)』です。


銀河帝国の未来を狂わせたミュータント「ミュール」

物語では、天才数学者ハリ・セルダンが「心理歴史学」という架空の科学を使い、巨大な銀河帝国の未来を予測します。

一人ひとりの行動を予言するのではなく、膨大な数の人間を集団として捉えることで、歴史の大きな流れを数学的に予測するのです。ところが、その計画を狂わせる人物が現れます。

それが、ミュータント「ミュール」です。

彼には、人間の感情に影響を与える特殊な能力がありました。
恐怖を弱める。忠誠心を高める。敵対していた人物を味方に変える。

セルダンの計画では予測できなかった異常な存在によって、銀河の歴史そのものが変えられようとします。これに対抗する第二ファウンデーションも、人間の精神に働きかける高度な技術を持っていました。

では、現実の科学では、人間の「心」をどこまで読み取ることができるのでしょうか?

「心を読む」とは何を読むことなのか

私たちが「心」と呼んでいるものは、科学的には脳の活動と深く関係しています。

脳では約860億個もの神経細胞が複雑なネットワークをつくり、電気信号や化学物質を使って情報をやり取りしています。喜び、恐怖、記憶、判断なども、こうした脳の活動と無関係ではありません。

もちろん現在のAIが、SFのように人の心を完全に読み取れるわけではありません。

しかし、「その人が何を感じ、何をしそうか」を推測する能力は急速に高まっています。

たとえばAIは、文章、検索履歴、購買履歴、閲覧した動画など、大量のデータから人間の興味や行動パターンを分析できます。

生成AIとの会話では、さらに多くの情報が得られます。
「最近こんなことで悩んでいる」
「この商品を買おうか迷っている」
「将来こんな仕事をしたい」

こうした情報が蓄積されれば、その人が何に興味を持ち、どのような説明に反応しやすいかをAIが推測することも可能になっていくでしょう。

つまり「脳を直接読む」のではなく、その人が残した大量の情報から、心の動きを推測するのです。

AIはミュールになれるのか?

もちろん、現在のAIと「ミュール」の能力には大きな違いがあります。
AIが人間の脳に直接入り込み、感情を書き換えることはできません。

しかし「人間の判断に影響を与える」という意味では、話は違ってきます。

私たちは昔から、広告、テレビ、新聞、口コミなど、外部の情報から影響を受けてきました。
現在ではSNSの推薦アルゴリズムが、「次に何を見るか」に大きく関わっています。

そこへ生成AIが加わると、情報の伝え方そのものが一人ひとりに合わせて変化する可能性があります。

これは「ミュール」のような超能力ではありません。

しかし、もしAIが人間よりも正確に「その人を説得する方法」を見つけるようになったらどうでしょう。そこには新しい問題が生まれます。

「これは自分の意思なのか。それともAIによって選ばされたのか?」

という問題です。

AIは人を操るのか、それとも理解するのか

AIが人の感情や考えを理解する能力そのものは、決して悪いものではありません。

たとえば教育では、生徒がどこでつまずいているのかをAIが推測し、その人に合った説明をしてくれるかもしれません。
言葉で気持ちを伝えることが難しい人を支援したり、複雑な情報を整理して意思決定を助けたりすることもできるでしょう。

つまり同じ技術でも「人の意思決定を助けるAI」にもなれば、
「人の意思決定を誘導するAI」にもなり得るのです。

アシモフが『ファウンデーション』シリーズを書き始めた1940年代には、現在のような人工知能はまだ存在していませんでした。「人工知能」という研究分野が本格的に形づくられるのは1956年のダートマス会議以降です。

それでもアシモフは、人間の行動を科学的に予測し、さらには精神に影響を与える世界を描きました。そして80年近くたった現在、私たちは少し違った形で、その問いに近づきつつあります。

この小説の「ミュール」が恐ろしいのは、強大な軍隊を持っているからだけではありません。人間が「自分自身の意思だ」と信じているものまで変えてしまうからです。

AIがさらに身近になる未来。
私たちが守らなければならないのは「自分で考え、自分で選べること」なのかもしれません。

古典SFを現在の技術と重ね合わせて読んでみると、物語が空想の話ではなくなって見えてきます。
それこそが、SFを読む面白さなのだと思います。

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